IPO準備企業における経理の役割・転職メリット・キャリアパスを紹介!



スタートアップ企業の多くが目指すとされるIPO(Initial Public Offering)とは、資金調達や市場からの信頼獲得などを目的に、株式を新規に証券取引所に上場させることを指します。
今回は、IPO準備企業における経理の重要性、実際にどのような経理業務を行うのか、IPO準備を経験するとその後のキャリアにどのように影響するのか、について解説します。
IPO準備企業における経理の重要性
まずはIPOに向けたフェーズごとに経理の役割と重要性を解説します。
N-3期(上場達成の3期前)
上場準備を本格的に始める際に、監査法人が行う短期調査をショートレビューと言います。
ショートレビューの結果、株式上場に向けた課題の全体像が洗い出されるため、経理担当者は主に会計関連の課題に対応していく役割が求められます。
また企業によっては資本政策の策定・実行に経理担当者が関与するケースもあります。上場準備開始から上場後までの間に、自社の株式を誰に、どれだけ、どのように持ってもらうのかを、外部からの資金調達やストックオプションの発行計画を含めて策定していきます。
N-2期の間に行われた資本の異動は上場時に開示されますので、それまでに整理したいことがあればN-3期に済ませておく必要があります。
N-2期(直前々期)
上場申請時には監査法人が作成する監査証明書(過去二期分の監査証明書と申請期における四半期レビュー報告書)が必要になるため、N-2期からは監査法人を選定し、会計方針の検討などを進めていきます。
未上場企業では、税務申告をすることを目的とした税法ベースの会計処理となっている企業が多いですが、上場時には金商法ベースの会計処理に変更する必要があります。また業務フローについてもしっかりとガバナンスが効くように規定の整備が必要なため、こういった会計処理の変更、規定の作成と運用体制の構築において経理の役割は重要です。
N-1期(直前期)
N-2期に引き続き上場会社と同様の管理体制を構築するため、より細かな規定の作成を行い、管理部門内の体制構築や内部統制フローの構築をしていきます。
直前期にはⅠの部やⅡの部といった上場申請書類の作成も始まります。上場時の申請書類の作成や上場後の有価証券報告書等、開示書類の作成を行うため、経理担当者が関与する業務も多いです。
また予実の強化もN-1期には重要な業務です。事業計画において策定した単年度および中期の売上や費用、利益について、予算と実績の差異分析を行い、予算策定の精度を高めます。予実の強化において、経理担当者は数値の取りまとめや会計上の正確性を担保する重要な役割を担います。
N期(申請期)
N期では主幹事証券会社から主幹事証券審査(引受審査)をうけます。引受審査では事業計画や将来性をチェックされるため、審査範囲は広範にわたります。提出資料に対して質問状が送られてきますので、会計領域においては経理担当者が回答・対応します。
引受審査後にはついに証券取引所審査です。このタイミングで指摘事項がない状況が理想ではありますが、想定していなかった指摘等があった場合は迅速に対応する必要があるため、会計領域の指摘事項であれば経理担当者も経営陣と連携しながらスピーディーに対応する必要があります。
このように新規上場には時間とコストをかけて所定の基準を満たすことが求められます。
基準の中には企業の収益基盤なども含まれているため、「経理担当者」が果たす役割は大きいといえるでしょう。
IPO準備では、会計以外にも満たすべき要件は多数ありますが、企業活動を明確に公表する義務が上場企業にあるため、会計の精度向上は必須事項です。経理担当者のスキル・知識が十分であることはIPO達成において必須といえるでしょう。
次に具体的な経理の業務内容を項目別で詳細に紹介します。
IPO準備企業の経理業務
IPO準備企業における主な経理業務は以下の業務です。
財務諸表の作成
年間の企業の財政状況を示す財務諸表の作成を行います。
決算公告は非上場企業であっても必要ですが、四半期単位で公開する決算短信や有価証券報告書は上場企業でのみ必要となります。
また、これらの書類の開示体制を整えることも大切です。
経理規程の作成
経理と財務に関わる内部統制の構築~評価を行う必要があり、規定に則って運用されているかを確認します。
監査法人への対応
IPO準備企業では、公認会計士に上場直前1期分の財務諸表の監査を受ける必要があります。また監査前に問題点を改善することも経理の役割です。
証券会社と証券取引所による審査対応
上場には、証券会社と証券取引所からも審査を受ける必要があります。
この審査の対応や指摘内容に対しての改善を行うことも経理の役割です。
フロー整備(決算の早期化、プロセス設計、API連携など)
上場企業は非上場企業に比べて、決算までの手間が多くなります。
その為、決算前の監査を早期に完了させて決算の早期に進めることが重要となります。
必要に応じたシステム導入
監査対象となる財務諸表を作成するための会計システムなど、IPO準備段階で必要となるシステムの導入が必要となります。
企業の状況などにより業務内容が異なる場合はありますが、上場に向けて必須となる経理の業務だけでも責任重大な内容と言えます。
時代に合ったIPO準備企業経理の働き方
IPO準備企業の経理は、通常業務に加えてIPO準備をするため、忙しく休みが取れない、働きづらいというイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、実はIPO準備企業であっても育休・産休の取得やリモートワーク、フレックス制度の導入など、時代に即した働き方ができる企業も多数あります。
IPO準備・達成後のプロセスでは、管理体制の充実が求められるため、育休取得後も同じ部署に復帰しているケースや、復帰後は時短やフレックス・リモート等で同じ職種を続けているケースも少なくありません。
その他、IPO準備企業の代表自身が育休を取得していたり、社員の育休による増員募集を行っていたりする企業もあります。
一方で会社の方針やDXの進捗によっては、〇〇ポジションは出社メインというような会社もあります。
IPO準備企業でやりがいを持って働いてみたいけど、働き方の融通が利かないという点で思い留まっている方であれば、一度応募企業の働き方について企業や転職エージェントに相談してみると良いかもしれません。
IPO上場企業で働くメリット・デメリット
IPO準備企業の経理で働くメリットとデメリットを紹介します。
メリット
上場までの流れを経験することが出来る
IPO準備企業の経理は、必要に応じたシステムの導入や内部統制、監査法人・証券会社との対応など、既に体制が整っている上場企業では経験できない業務に携わることができます。
IPO準備に必要な多様なタスクに取り組む経験を積み上げることで、自分自身のキャリア形成に役立つと言えるでしょう。
自分の転職市場価値が上がる
上述の通り、IPO準備段階では様々な日常の経理業務以外のタスクが発生します。IPOは基本的に1社で1回しか行わないため、IPO達成経験のある経理担当者は非常に貴重な存在です。そのため、IPO準備企業ではIPO達成経験のある経理担当者を欲しているケースも多く、市場価値が高くなるでしょう。
ストックオプションによって資産形成を目指せる
ストックオプションとは、企業が従業員や取締役に対して、事前に決められた金額(権利行使価格)で、株式を取得できる権利のことです。
ストックオプションを得た後、企業が上場を果たし、業績がアップして株価が上昇すれば、権利行使価格と実際の株価の差を利益として得ることができます。
しかし、上場に至らなければストックオプションの価値はなくなる為、注意も必要です。
デメリット
時期やフェーズによって激務になる可能性がある
申請期前後やIPO直後は、一時的に業務が多くなりやすいとされています。
また、企業の人員が不足していると1人当たりの業務量が多くなってしまうなど、企業の状況によっても忙しさは異なります。
しかし、IPOフェーズによって対応する難易度や業務量は変わりますので、IPO準備中は慢性的に残業多くなる、という可能性は少ないでしょう。
上場出来ない可能性がある
経理として上場準備の経験を積みたいという思いでIPO準備企業に転職しても、実際には全てのIPO準備企業が上場できるというわけではありません。
上場企業と同様の管理体制の整備、運用を行うN-2期でIPO準備が止まったり、最終的には上場準備から撤退するというケースもあります。
IPO準備企業に転職をする際には、応募する企業の上場準備に対する思いや事業の成長性などを確認しておくことをお勧めします。
IPO準備企業の経理は高年収!?
一般的に、大手企業の方がスタートアップ企業に比べて年収が高く、好待遇と考えられています。しかし、昨今では23年12月の日経新聞で「スタートアップ、平均年収700万円超え 上場企業上回る」などの記事が話題にもなったように、実際スタートアップ企業の年収が上がっており、大手企業よりも年収が高いというケースもあります。
IPO準備企業も同様の傾向があり、数年前と比較してCFOや経理部長などの管理職であれば、年収1,000万円以上も狙うことができるほど年収が上がっています。
また、大手企業と比較すると少数精鋭の企業が多く、上級役職が詰まっていないこともよくあり、自身の努力次第でさらに上の役職にチャレンジする機会もあります。
スタッフ層など一般職の場合でも業界平均程度の年収になるため、IPO準備企業の待遇は以前よりも良くなっているとされています。この背景として、国内のスタートアップ企業1社あたりの資金調達額が増加傾向にあることが要因の一つです。調達した資金の使い道として人材に投資を行う企業も増えている点が挙げられるでしょう。
IPO準備企業を経験した後のキャリア
IPO準備企業で経理の経験を積むことは、その後のキャリア形成にとっても役立つ経験になります。
しかし、IPO準備企業の経理の経験といっても、N-3期~N期のどこのフェーズを経験したかや、そのフェーズの中で何を任されたか等により、身に付くスキルとその後のキャリアも変わってきます。
下記はあくまで一例です。
IPO準備企業の経理
「IPO準備からまたIPO準備?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、例えばN期手前で入るとあまりIPOをやった実感がもてず、もっとアーリーフェーズでやりたい、という気持ちになることがあります。またIPO中止となってしまい、次はIPO達成確度の高い会社に行きたいという思いが芽生えることもあります。
またN-1期以降になると、ポジションによっては上場企業出身者を求める求人が出るなど、フェーズや募集背景によって求めるスペックも様々です。
IPOを達成した経験がある場合、別のIPO準備企業に転職することで好待遇が期待できるという魅力もあります。
上場企業や上場企業の子会社の経理
IPO準備企業で経験できる経理の業務は、上場企業の経理業務の基盤になります。
IPO準備企業で経理の経験を積むことで上場企業や上場子会社へ転職していくことも可能になります。
経理以外の職種
IPO準備企業での経理経験を積むことで、多岐に渡る経験を積むことができるため、経営企画やIR等の他職種へ挑戦する道もあります。社内での異動が難しい場合、これまでの経験を活かして他社に転職し、別職種で活躍することも可能でしょう。
IPO準備企業の転職市場は?
直近のIPO企業数は2022年が91社、2023年が96社、2024年が86社と、おおよそ90社前後となっています。
その為、IPO準備企業の経理ポジションも安定して新規求人が出ておりますが、求人数が多い分、求人の見極めが重要となります。
興味のある業界の企業を目指すのか、キャリア形成の為にIPO達成の経験を積みたいのかによって求人を見るポイントが異なりますので、活況なIPO転職市場であっても慎重に行動することが重要です。
また、自分一人で求人の見極めができないという場合には、転職エージェントに相談することをお勧めします。
IPO準備企業は○○な人材を求めている
ここまでIPO準備企業の経理の仕事内容やキャリアを紹介しましたが、 実際にIPO準備企業の経理で採用されるのはどのような人材なのでしょうか。
経理経験者
まず経理業務経験者は、IPO準備企業に限らずどの企業でも求められる人材となります。
転職では即戦力を求める傾向にありますので、経理経験がある場合は転職先の幅も広がるでしょう。また上場後はもちろん、IPO準備中も上場基準の会計処理を求められるため、上場企業での経理経験者も有利です。
公認会計士
IPO監査を担当したことがある公認会計士はもちろんですが、上場企業の監査経験のみの公認会計士も人気が高いです。
会計士は金商法・会社法に精通しており、日常の経理業務を安心して任せることができます。また、公認会計士はJ-SOX法にも明るいため、ガバナンス体制の構築やその後の運用についても活躍が期待でき、IPO準備企業との相性は非常に良いです。
IPOへの興味・関心
経理業務未経験の方でもIPO準備に挑戦したいという意欲の高い方は実際に採用へ繋がっています。IPO準備企業では既存のモノの運用よりも新しいモノの構築などが多くなるため、「0→1にした経験、そういったことがやりたいという志向がある人材」は高評価へ繋がります。
また、IPO準備企業ではタイトなスケジュールの中でタスクを処理するシーンも多いため、ストレス耐性やコミット力が高い方も高評価です。
まとめ
財務諸表の作成と開示業務、監査法人への対応、証券会社による審査対応など、IPO準備企業において「経理」が果たす役割は大きいです。
また、IPO準備企業は企業規模を大きくしていく段階のため、経理部門の方でも経営企画や人事、マーケティングなど多様な業務に携わることも可能です。
IPO準備企業だからこそ挑戦できるという業務は多く、IPO準備企業での実務経験は、自分の市場価値を高め、年収アップを図っていくというキャリアにも繋がるでしょう。
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この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、旅行代理店にて法人営業を約3年。20代でMS‐Japanへ入社。
企業の採用支援(リクルーティングアドバイザー)を約8年、求職者の転職支援(キャリアアドバイザー)を約5年経験。
両ポジションでチームマネジメントを経験し、キャリアアドバイザーとしては複数回にわたり支援実績数NO1を獲得。リクルーティングアドバイザーにおいても入社1年半後にチームマネジメントを経験させていただきました。現在は子育てと両立しながら、常に社内でトップ10以内の採用支援実績を維持。
経理・財務 ・ 法務 ・ 役員・その他 ・ IPO ・ 公認会計士 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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