企業内税理士とは?会計事務所経験だけでも転職できるのか、業務内容や年収について解説!



会計事務所で一定の経験を積んだ税理士が、一般企業へ転職するケースが増えています。
企業で働く「企業内税理士」は、税務の専門知識を活かしながら、安定した収入とキャリアが見通せる選択肢として人気の職種です。
では、会計事務所の経験だけで本当に企業への転職は可能なのでしょうか。
本文では、企業内税理士の仕事内容や年収事情に触れつつ、メリット・デメリット、求められるスキルも含めて解説していきます。
企業内税理士の仕事内容
企業内税理士とは
企業内税理士とは、一般企業や組織に雇用され、その一員として税務および関連業務に携わる「インハウス税理士」を指します。
担当業務は所属する企業や部署によって異なり、経理部門で決算や経理業務を担う場合もあれば、税務専門の部署で国際税務や節税戦略に従事するケースもあります。
税務申告に必要な書類作成だけではなく、業務プロセスの改善や経理システムの導入支援にあたることも特徴です。
企業によっては、外部の税理士では難しい組織内の意思決定に関与し、経営的な税務戦略へのアドバイスや内部統制の強化を進める役割も求められるでしょう。
企業内税理士が経理業務に携わる場合
経理部門で働く企業内税理士は、業務が「日次」「月次」「年次」のサイクルで整理され、それぞれ異なる役割を担います。
日次業務
現金・預金の管理
入出金の記録や残高確認を行い、現金や口座の状況を常に把握します。
伝票処理
取引の伝票を作成し、帳簿への正確な記録を進めます。
経費精算
従業員の経費申請内容を確認し、仮払金の処理を含めた清算を行います。
月次業務
買掛金・売掛金の管理
取引先への支払いや顧客からの入金を把握し、期日管理を徹底します。
給与計算
勤怠データをもとに給与を計算し、源泉徴収や社会保険料の計算も担当します。
在庫管理
商品や資材の棚卸を行い、財務報告に必要な在庫情報を整理します。
年次業務
年末調整
扶養控除申請の受付や各種控除を反映した所得税調整に取り組みます。
償却資産の申告
減価償却費を計算し、固定資産税申告を適切に行います。
決算・申告業務
貸借対照表や損益計算書の作成を進め、法人税や消費税の申告手続きを完了させます。
企業内税理士ならではの役割・業務
税務相談・アドバイス
経営陣や各部門からの相談に対応し、節税対策からM&Aの税務課題まで、さまざまなアドバイスを行います。
必要に応じて、外部の顧問税理士や金融機関への橋渡しを担うのも企業内税理士の役割です。
税務調査対応
税務署からの調査に備え、帳簿や証憑の準備を担当します。
調査官とのやり取りを通じて、修正申告が必要な場合には適切な対応をとります。
監査対応
内部監査や会計監査人の対応も企業内税理士の役割です。
必要な資料を不備のないように準備し、監査指示に基づいて情報を提供することで、企業の信頼性を確保します。
内部統制業務
業務プロセスのリスク管理やJ-SOX法に基づく内部統制報告書の作成も主要業務です。
各部門との連携を図り、業務フローの改善を通じて組織全体の透明性を高めます。
組織改編・組織再編
自社の組織改編や合併・分割などの組織再編において、税務上の影響を分析し、最適なプランを提案します。
再編後の事業構造に適した税務処理を整えることは、企業内税理士の重要な任務です。
システムの導入支援
経理と税務の効率化を目指し、新しい会計システムの導入をサポートすることも税理士業務の一環です。
要件定義や導入プロセスの計画策定に関わり、安定稼働までの移行を支援します。
国際税務
海外拠点との取引が発生する場合、移転価格税制の対応や二重課税の防止を目的に各国の税制を調査します。
税務コンプライアンスを遵守しながら、企業のグローバル展開を後押しする役割を担います。
企業内税理士の業務は、経理・税務の枠を超え、経営戦略や組織の運営に深く関与します。
会計事務所とは異なり、組織の内部から業務を支えることが求められるため、専門知識に加えて、組織内の調整力や柔軟な対応力も必要となるでしょう。
企業内税理士と会計事務所(税理士法人)で働く税理士の割合
MS-Japanが運営する「MS Agent」は、税理士を含めた士業と管理部門を専門とする転職エージェントです。
2023年に「MS Agent」に登録された税理士の勤務先データでは、会計事務所(税理士法人)に所属する税理士の割合は50.8%で、インハウス税理士が39.1%でした。
税理士の勤務先は会計事務所が約半数を占めるものの、4割近くの税理士も企業内で活動していることがわかります。
企業内税理士の人気は、税理士が転職で希望する業種の割合にも表れています。
具体的には、会計事務所(税理士法人)への転職を希望する割合が54.5%である一方、企業内税理士を規模する割合は25.9%、さらに両方の選択肢を検討している税理士は19.5%です。
このデータから、決して少なくない割合の税理士が、一般企業への転職を希望していると言えるでしょう。
次章では、企業内税理士の人気が高まっている背景について見ていきましょう。
企業内税理士の年収は?
企業内税理士が人気である背景を、年収面から見ていきましょう。
企業内税理士の年収は、就職先の企業が設ける給与テーブルや採用後のポジションに応じて異なりますが、大手企業であれば転職直後でも500万円以上になることが一般的です。
また、国際税務など専門性の高い分野で経験を積んだ税理士や、転職先のニーズに適したスキルを保有している場合は、年収が600万円を超える条件で採用されることもあります。
事業会社ならではの安定した給与体系に加え、比較的高い年収でキャリアチェンジできる点が、企業内税理士の魅力です。
実際に、2023年7月~2024年6月で「MS Agent」に登録のあった税理士の平均年収を業種別に算出すると、会計事務所は682万円、インハウスは884万円と、200万円以上の差が見られました。
また、税理士試験の科目合格者の場合も、会計事務所は平均462万円ですが、インハウスは平均646万円となっており、企業勤務のほうが年収面で優位な状況が確認されています。
ただし、このデータだけで会計事務所の年収が低いと断定するのは適切ではないでしょう。
多くの税理士は、まず会計事務所で実務経験を積み、税理士登録後に一般企業へ転職するケースが一般的です。
つまり、年齢が比較的高く、一定のキャリアを積んだ税理士が企業内で勤務することで、平均年収を押し上げている可能性があります。
企業内税理士への転職は、収入面だけではなく、仕事内容や働き方、やりがいなども含めて、メリット・デメリットを勘案した上で、慎重に検討する必要があります。
次章以降、そのメリット・デメリットについて、一般企業と会計事務所の両面から掘り下げていきます。
企業内税理士として働くメリット・デメリット
まずは、企業内税理士として働くメリットに着目してみます。
安定した収入・ワークライフバランス
企業内税理士は、基本的に正社員として雇用されるため、収入面で安定しやすいことが利点です。
待遇は企業によってさまざまですが、大手企業の経理管理職候補になると、前述のとおり年収500万円以上でのスタートというケースも珍しくありません。
また、フレックスタイム制やリモートワークなど、柔軟に働ける環境が多く、ワークライフバランスが保ちやすい点も魅力です。
経営戦略の立案に携わる機会がある
企業内税理士は、企業の将来にかかわる融資交渉や企業財務をはじめ、海外に展開している企業であれば国際税務への対応業務など、グローバルな視野を持って働けます。
税務業務だけではなく、経営戦略の立案に携わる機会があることも、企業内ならではの特徴と言えるでしょう。
業務を通じて身につく企業経営の知識やスキルは、将来的に別の企業や会計事務所などへの転職を考える際にも役立ちます。
大きな組織でマネジメントを手掛けられる
企業内税理士が大企業の経理セクションの管理者になれば、組織の管理や運営を任されます。
大きな組織でマネジメント経験を積みたい税理士にとっては、企業内税理士という選択肢は魅力的と言えるでしょう。
続いて、デメリットにも目を向けてみましょう。
業務範囲が限定的になりやすい
企業内税理士は、基本的に自社やグループ会社の税務に携わるため、業務の幅が限られる傾向にあります。
会計事務所のように、さまざまな業種や規模の案件と関わる経験を積むことは難しくなるでしょう。
また、税務に関する副業を制限する企業もあり、独立税理士と比較して実務の自由度も限定的です。
長期間同じ環境で勤務すると、専門性が一部に偏るリスクも否めません。
転勤・部署異動の可能性がある
企業内税理士は組織の一員であるため、組織の都合により転勤や部署異動が発生することがあります。
経営陣に近い経理・税務部門であっても、場合によっては地方や海外への異動を命じられるケースも考えられます。
特に、会計分野と異なる部署への異動や出向となると、税理士としての専門性に大きな影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
自身の仕事に対して感謝される機会が減る
会計事務所の仕事では、中小企業の経営者や顧客との直接的なコミュニケーションを通じて、感謝される場面が多くあります。
一方、企業内税理士は感謝される場面が少ない傾向です。
社内で業務を進める際は、チームの一員として組織目標を達成する形が重視されるため、個人の働きに対する直接的な評価を受けにくいのが実情です。
感謝されることがやりがいや仕事へのモチベーションにつながっていた場合、心理的なデメリットは避けられないでしょう。
会計事務所(税理士法人)で働くメリット・デメリット
次に、会計事務所(税理士法人)で働くメリットも確認しておきましょう。
高度な業務に関与し、専門性を高められる
会計や税務の領域で高度な業務に携わり、専門性を高められることは、自身のキャリアにおいて大きなメリットです。
税務申告や法人顧問業務といった、会計事務所(税理士法人)だからこそできる業務を日常的に行うことで、専門的なスキルが磨かれます。
ここでの経験を通じて得た知見は、経歴に厚みを与えるだけでなく、事業会社へ転職する際にも有用なものとなるでしょう。
クライアントから感謝される
会計事務所(税理士法人)の業務は、中小企業の経営者と密接にかかわり、その税務相談に応じる場面が少なくありません。
特に、資金繰りや事業再生の課題に対して適切な助言を行うと、感謝の言葉を直接受けやすくなります。
ビジネスの相手であっても、実際に困っている人から感謝されることは、働くモチベーションを高め、やりがいにつながるものです。
不況に強い業種である
会計事務所(税理士法人)は景気に左右されにくい業種です。
不況期であっても、決算や税務申告は必ず行う必要があり、むしろ資金調達や事業再生のニーズが増える場合もあります。
経済が不安定な状況でも、需要の安定性が見通せることは、心強い利点と言えます。
続いて、デメリットにも触れてみます。
繁忙期がある
会計事務所(税理士法人)には忙しさが増す「繁忙期」があり、12月〜5月にかけて比較的長く続くことが特徴です。
この期間は法人の決算や確定申告が重なることから、業務量が増え、残業が避けられないケースも多く見られます。
プライベートの時間を確保しにくくなるため、スケジュール管理には工夫が求められるでしょう。
知識のキャッチアップが大変
税法や会計基準は毎年のように変更されるため、常に最新の情報に対応する姿勢が肝要です。
クライアントからは税務だけでなく、助成金や社会保険関連の相談が寄せられることも多いため、幅広い知識を身につけていく必要もあります。
これらのキャッチアップが苦手な人にとっては、負担が重く感じられるかもしれません。
企業内税理士への転職で求められるスキルとは?
企業内税理士として活躍するためには複数のスキルや手続きが求められます。
税理士登録
企業内でも税理士としての業務を遂行するためには、税理士会に登録していなければなりません。
通常は自宅を事務所に設定して、地域の税理士会に登録するケースが多いようです。
企業内だけなら登録は不要に思えますが、その場合、税務申告書に税理士として署名することはできません。
転職先の企業の条件で、登録の要・不要を確認しておく必要があります。
また、会計監査や税務調査において、税理士という肩書きは非常に役立ちます。
ほかに登録した税理士がいないなど、企業内税理士でも登録が必要となる状況が考えられるため、迷うようであれば登録しておくのがおすすめです。
所属企業の知識
企業内税理士として働く場合、会計事務所(税理士法人)で働く場合よりも幅広い業務への対応を求められます。
税務の専門家としてだけでなく、その企業の事業に関する知識と、それを税務面からサポートするスキルも必要です。
企業内税理士が携わる業務フローは、企業や業種ごとに大きく異なります。
それらを熟知し、他部門に対して税務面や経理面からアドバイスすることこそ、企業内で専門性を発揮する税理士の醍醐味と言えるでしょう。
コミュニケーション能力
上述のように企業内税理士は部門を越えた業務をサポートするため、税務スキル以外にコミュニケーション能力の高さも要求されます。
特に管理職を目指すなら、調整能力やトラブルへの対処能力も重視されます。
単なる税務の専門家であるよりも、税務を中心にしたオールラウンドな会計のゼネラリストであることが、転職後のキャリアアップに必要な要素です。
IPOやM&Aなどの専門知識
最近では、ベンチャー・スタートアップ企業においても、企業内税理士のニーズが高まっています。
変化の激しいベンチャー企業に転職する場合は、IPOやM&Aなどの特別な業務に対する知識を持ち、そのようなプロジェクトにかかわった経験があれば、有利に転職活動を進められるでしょう。
企業内税理士の求人事例
MS-Japanの転職エージェントサービス「MS Agent」は管理部門・士業に特化しており、税理士の企業への転職を数多く支援してきました。
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仕事内容 |
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想定年収 |
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必要な経験・能力 |
■必須要件 ・税理士資格 ■歓迎要件 ・英語力 |
想定年収 |
800万円 ~ 1200万円 |
税理士※所定労働7時間/リモート・フレックスあり
仕事内容 |
企業内税理士として下記業務を担当いただきます。 <想定される業務内容> ・決算に関する業務 ・申告・納税に関する業務 ・税務照会、税務調査に関する業務 ・国内・海外グループ会社に関する業務 ・新規プロジェクトに関する業務 等 ※将来的に、会計事項にチャレンジいただける可能性もあります。 |
必要な経験・能力 |
<必須> ・税理士の資格 ・申告・納税に関する実務経験 <歓迎> ・法人税・所得税・相続税・消費税のいずれかの知識 |
想定年収 |
720万円 ~ 1100万円 |
まとめ
会計事務所(税理士法人)で培ったスキルや経験は、企業内税理士の業務においても役立つものです。
異なる業務内容や新たな環境への適応が必要ですが、税務の専門性を活かすことで、成長の機会を得られる可能性は低くありません。
会計事務所の経験だけを持つ方も、準備と行動次第で実現可能な選択肢となるでしょう。
転職活動で実務経験をアピールし、求められるスキルに磨きをかけることで、企業への移行はスムーズに進むはずです。
- #企業内税理士とは
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- #インハウス税理士


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、幸せに働く人を増やしたいという想いから新卒でMS-Japanに入社。
上場企業を中心とした求人開拓から管理部門全般のマッチングを行い、2021年1月より専門性の高いJ事業部に異動。
主に会計事務所、監査法人、社労士事務所の担当を持ちながら士業領域での転職を検討している方のカウンセリングから案件紹介を両面で行う。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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