簿財とは?試験内容や難易度、科目合格者の転職事情について解説!



税理士試験における「簿財」とは、それぞれ簿記論・財務諸表論のことで、合格者は会計分野での就職転職で有利に働きます。
簿財はそれぞれの科目の関連性が高いことから、税法科目にチャレンジする前の足掛かりとして受験されることも多い傾向にあります。
また、簿財の2科目は受験資格が撤廃されたため、学歴や職務経験に関係なく誰でも受験することができるようになりました。
この記事では、簿財(簿記論・財務諸表論)の試験内容や、簿財合格者の転職事情などについて解説します。
簿財とは?
簿財は、税理士試験において必須科目である、簿記論と財務諸表論を略した表現です。
税理士になるためには、大学院修了、国税庁での勤務経験による科目免除や他資格(弁護士、公認会計士)による登録要件を満たす等の一部例外を除き、原則として「必ず合格しなければならない」科目です。
それぞれの科目に合格した場合、以下のようなルール・考え方が受験者に身についているものと判断されます。
科目 | 詳細 |
---|---|
簿記論 | 企業活動における取引の記録・集計・計算方法などのルールに関する科目 |
財務諸表論 | 会社の利害関係者(株主・銀行)に対して、経営成績や財産状況を開示する目的で作成される、財務諸表の作成方法・考え方・ルールに関する科目 |
簿記論と財務諸表論は互いに関連性があり、簿記論では具体的な処理方法を、財務諸表論では理論面を学ぶことになります。
簿財の理論に関しては、株式会社の仕組みをベースにまとめられていることから、株式会社の制度・用語を理解することも求められます。
簿財の試験内容は?
簿記論と財務諸表論は、それぞれ似たような分野ではあるものの、試験内容は異なります。
以下、2024年度試験の情報を参考に、簿記論・財務諸表論の試験内容についてまとめました。
試験内容 | 簿記論 |
---|---|
試験時間 | 9:00~11:00(1日目) |
出題形式 | ・第1問25点(個別問題) ・第2問25点(個別問題) ・第3問50点(決算整理等の総合問題) 合計100点満点 |
出題傾向 | 問題のほぼすべてが計算問題と考えてよく、勘定科目・金額の穴埋め問題もある 総じて問題数が多いことから、スピーディーな計算力に加えて、できるものから確実に処理していく要領の良さも求められる |
合格基準 | 満点の60%以上 相対評価のため、実質的には全受験者の上位12~23% |
試験内容 | 財務諸表論 |
---|---|
試験時間 | 12:30~14:30(1日目) |
出題形式 | ・第1問25点(理論問題) ・第2問25点(理論問題) ・第3問50点(計算問題) 合計100点満点 |
出題傾向 | 理論問題では記号選択問題、論述問題などが出題され、会計の根本的な部分や制度の趣旨などが問われる 計算問題では、財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を作成する問題が出題される |
合格基準 | 満点の60%以上だが、その年により合格基準が異なるとされる |
簿財の受験資格
令和4年(2022年)に税理士法が改正され、会計学科目の簿記論・財務諸表論は受験資格が撤廃されました。
過去には、受験のため所定の要件を満たす・資格を取得する必要があったことから、受験資格が撤廃されたことにより、さらに多くの人が税理士試験に挑むものと期待されています。
簿財の受験資格が撤廃された背景
簿財の受験資格が撤廃された背景には、受験者数の減少があります。
国税庁によると、税理士試験の受験者は年々減少傾向にあり、平成27年(2015年)の受験者数が38,175人だったのに対して、令和4年(2022年)の受験者数は28,853人と、概ね10,000人も減少している計算になります。
このまま受験者数が減少することにより、多くの事業者が税務・会計面で頼りにしている税理士がいなくなると、日本経済が停滞するおそれがあります。
そこで、これまでの受験制度を見直し受験者数を増やすべく、税理士法の改正に至ったというのが、簿財の受験資格撤廃につながっているものと推察されます。
簿財の受験資格が撤廃されたメリット
簿財の受験資格が撤廃されたことで、これまで税理士試験の受験をあきらめていた、もしくは受験ができなかった層が、税理士試験にチャレンジできるようになりました。
これまでは、大学入学後に合格までの道筋を立てるのが一般的でしたが、簿財に関しては誰でも受験できるようになったため、例えば高校生の段階で合格を目指すことも可能です。
大学受験との両立は難しいかもしれませんが、それでも早いうちから簿財に合格していれば、大学に進学してからは税法科目の合格だけに力を注げます。
仮に、別の進路に魅力を感じて税理士試験の勉強をいったんストップしたとしても、合格した実績は消えないため、就転職でアピールできるでしょう。
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税理士試験の受験資格緩和について解説
簿財の難易度はどれぐらい?
簿財を受験するにあたっては、試験の合格率や難易度は知っておくと良いでしょう。
以下、簿記論と財務諸表論のそれぞれの合格率を紹介します。
「簿記論」の合格率・難易度
以下は、令和4年から令和6年の受験者数と合格者数、合格率です。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
令和6年 | 17,711人 | 3,076人 | 17.4% |
令和5年 | 16,093人 | 2,794人 | 17.4% |
令和4年 | 12,888人 | 2,965人 | 23.0% |
税理士試験全体を見ると、令和5年度からは受験資格が緩和され、令和4年度に比べて受験者数が増加し、それにともない合格率が低下しています。
考えられる一因として、簿記論が「制限時間内に正確な計算を行う」能力を問う科目であることがあげられ、初めて受験する人にとっては時間が十分でなかった可能性があります。
よって、初学者・初受験者が合格するためには、正確かつスピーディーな計算能力を鍛えることが大切です。
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簿記から始める税理士試験!~簿記1級と簿記論の比較~
「財務諸表論」の合格率・難易度
続いては、財務諸表論の合格率について見ていきましょう。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
令和6年 | 13,665人 | 1,099人 | 8.0% |
令和5年 | 13,260人 | 3,726人 | 28.1% |
令和4年 | 10,118人 | 1,502人 | 14.8% |
財務諸表論は、毎年比較的高めの合格率を推移していましたが、令和6年試験では全科目の中で最も合格率が低い異常な結果でした。
財務諸表論は簿記論と比べて合格率の上下幅が大きいため、令和7年度試験の合格率も注目されています。
ただし、計算を求められる簿記論とは異なり、財務諸表論は考え方・会計ルールについての知識が問われる科目のため、対策は十分に可能です。
転職市場における簿財科目合格者の評価は?
簿財の科目合格者であるメリット
簿財は税務・会計業務の基盤となるものであり、税理士事務所のみならず、様々な職場で自分の能力をアピールすることにつながります。
一般企業の経理部門に応募する際も、簿財の資格があれば有利に働くはずです。
簿財は税務・会計業務の基礎を熟知しているかどうかを判断する科目のため、税理士試験の中でも難度が高い部類に入ります。
科目合格に加えて実務経験も十分なら、鬼に金棒となるでしょう。
何科目合格すると転職に有利なのか
面接官に好印象を与えるといったレベルであれば、1科目の合格であっても十分かもしれません。
しかし、例えば実務未経験者が税理士事務所を目指す場合などは、最低でも簿財に受かっておいた方が採用の確率は高まります。
大手税理士事務所の場合、3科目以上の合格者を採用するスタンスのところも珍しくありません。
年齢が上がるにつれて、合格した科目数や実務経験のハードルが上がっていく点にも注意が必要です。
また、評価につながる科目も、税理士事務所や企業等で違いがあります。
簿財は必須科目であるため、こちらにプラスして所得税法や法人税法に合格していると、高評価につながりやすいでしょう。
科目合格者を特に求めているのは税理士事務所
会計業界は、少子高齢化の影響もあって、地方を中心に税理士・会計業務従事者が不足しています。
税理士試験の受験者数も年々減少しており、平成28年度の受験申込者数は47,145人であるのに対して、令和3年度の受験申込者数は35,774人となっています。
そのような事情から、若手税理士の数は減少しており、多くの税理士事務所が危機感を抱いています。
過去には3科目合格以上を応募要件としていた事務所が多かったのですが、近年では1~2科目合格者や未経験者を募集する事務所も増えてきています。
若手の人材を教育する必要性を感じている税理士事務所では、研修制度・福利厚生を充実させることに力を入れています。
働きながら税理士試験に合格しようと考えている求職者にとっては、追い風の状況と言えるかもしれません。
一般企業やコンサルティングファームでのニーズは?
税理士科目合格者は、応募者に会計知識を期待する一般企業にとっても欲しい人材です。
ただし、税務を自社で行っているかどうかによって、ニーズにも差が生じるでしょう。
税務のほとんどを顧問税理士が担当している企業では、自社で税務担当者を新たに配置したい場合を除いて、基本的に税務に詳しい人材を必要としません。
しかし、自社で決算を組んで税務も行う場合は、税務知識を重視して人材を採用する必要性があります。
コンサルティングファームの場合は、逆に一般的な税務知識だけでは太刀打ちできない案件が多数存在するため、国際税務やM&Aなど専門分野に精通している必要があります。
例えば、事業承継や相続に関する分野でコンサルタントに相談するクライアントは少なくないので、顧客のニーズに合致する科目合格者は優遇されるかもしれません。
簿財科目合格者の転職先
簿財を取得した科目合格者は、数多くの職場で重宝されます。
以下、簿財の評価が高い転職先について解説します。
税理士事務所(会計事務所)
税理士事務所では、簿財の知識が実務に直結するため、応募者の能力を図る上で重視されます。
年齢にもよりますが、仮に会計・税務分野の仕事が未経験であったとしても、採用される可能性は十分あります。
ただし、転職後は忙しくなるので、プライベートの時間を割いて勉強を続けるのは大変です。
将来的に独立を検討しているなど、実務経験よりも資格取得を優先する理由があるなら、定時で帰れる職場を選んで5科目合格を目指すのも一手です。
20代で合格しているなら、いわゆるBig4のような超大手税理士法人も視野に入れることができます。
日本を代表する大企業に対してのダイナミックな税務経験が積める上に、若くして高年収を狙える職場でもあることから、科目合格の際は是非チャレンジしてください。
一般企業
一般企業の経理業務と、簿財は密接に関係しています。
よって、簿財合格者は一般企業でも一定の評価を受けることでしょう。
仮に、簿記論・財務諸表論の片方しか合格できていなかったとしても、面接官の評価にはプラスに働きます。
企業側も、科目合格者でない人材に比べて「より多くの仕事を任せられる」と判断するはずですから、将来のキャリア構築にも有利です。
簿財科目合格者の年収は?
税理士試験の科目合格者は、そうでない人に比べて、年収が上がる傾向にあります。
求人情報の中で、科目合格者の年収につき、別途記載している事務所や企業も珍しくありません。
下記は、2023年1月~12月の期間で弊社にご登録いただいた税理士科目合格者と税理士の方の平均年収になります。
税理士試験合格科目 | 平均年収 |
---|---|
税理士1科目合格 | 420万円 |
税理士2科目合格 | 446万円 |
税理士3科目合格 | 480万円 |
税理士4科目合格 | 495万円 |
簿財のみ合格したケースを考えてみると、2科目合格者なので450万円程度の年収となるのが一般的ですが、実務経験が加味されれば、さらに年収も上がります。
一般企業など、税理士事務所以外の転職先を選べば、より良い条件で雇ってくれる可能性もあります。
転職エージェントなど、求人情報が豊富なサービスを活用しつつ、自分が納得できる条件の職場を探しましょう。
税理士試験科目合格者歓迎の求人例
税理士試験の科目合格者は、様々な職場で歓迎されています。
以下、MS-Japanで取り扱いのある求人の中で、おすすめの求人をいくつかご紹介します。
Big4税理士法人
仕事内容 |
・税務業務全般 ・組織再編に関する税務提案 ・事業再生に関する税務提案 |
必要な経験・能力 |
・税理士(科目合格者含む) ・証券アナリスト、CFA、簿記など |
想定年収 |
500万円 ~ 1,000万円 |
少数精鋭のブティック系事務所
仕事内容 |
・会計税務顧問 ・各種申告書作成 など |
必要な経験・能力 |
・公認会計士 ・税理士(2科目以上合格) |
想定年収 |
550万円 ~ 1,000万円 |
まとめ
税理士試験の受験科目である簿記論・財務諸表論は、法改正で受験資格が撤廃されたことにより、これまで以上に多くの人が受験するものと考えられています。
しかし、試験の難易度そのものが変化したわけではないため、簿記論のように正確かつスピーディーな計算能力が求められる科目については、合格率が急激に上昇する可能性は低いでしょう。
簿記論・財務諸表論ともに、簿記などの予備知識を頭に入れてから受験勉強を始めた方が、勉強時間を短縮できる可能性があります。
2科目だけに合格しただけでも、その人材の転職市場での評価は高いため、まずは簿財の合格を目標に受験勉強を始めてみてはいかがでしょうか。
- #税理士試験
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- #税理士試験科目合格


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、不動産会社にて個人向けの営業を経験。その後MS-Japanへ入社。会計事務所・コンサルティングファーム・監査法人・法律事務所・社会保険労務士事務所等の法人側担当として採用支援に従事。現在はキャリアアドバイザーも兼務し一気通貫で担当しております。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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